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答う。南無妙法蓮華経肝心なり。
その証いかん。
答えて云わく、阿難・文殊等、「如是我聞」等云々。
問うて曰わく、心いかん。
答えて云わく、阿難と文殊とは、八年が間、この法華経の無量の義を一句一偈一字も残さず聴聞してありしが、仏の滅後に結集の時、九百九十九人の阿羅漢が筆を染めてありしに、妙法蓮華経とかかせて、次に「如是我聞」と唱えさせ給いしは、妙法蓮華経の五字は一部八巻二十八品の肝心にあらずや。されば、過去の灯明仏の時より法華経をこうぜし光宅寺の法雲法師は、「『如是』とは、将に所聞を伝えんとす。前題に一部を挙ぐるなり」等云々。霊山にまのあたりきこしめしてありし天台大師は、「『如是』とは、所聞の法体なり」等云々。章安大師云わく「記者釈して曰わく、けだし、序王とは経の玄意を叙ぶ。玄意は文の心を述ぶ」等云々。この釈に「文の心」とは、題目は法華経の心なり。妙楽大師云わく「一代の教法を収め、法華の文の心を出だす」等云々。
天竺は七十箇国なり。総名は月氏国。日本は六十箇国、総名は日本国。月氏の名の内に七十箇国、乃至人畜・珍宝みなあり。日本と申す名の内に六十六箇国あり。出羽の羽も奥州の金も、乃至国の珍宝・人畜、乃至寺塔も神社も、みな日本と申す二字の名の内に摂まれり。天眼をもっては、日本と申す二字を見て六十六国乃至人畜等をみるべし。法眼をもっては、人畜等のここに死し、かしこに生まるをもみるべし。譬えば、人の声をきいて体をしり、跡をみて大小をしる。蓮をみて池の大小を計り、
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(010)報恩抄 | 建治2年(’76)7月21日 | 55歳 | 浄顕房・義浄房 |