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疑って云わく、その心いかん。
答えて云わく、小河は露と涓と井と渠と江とをば収むれども、大河をおさめず。大河は露乃至小河を摂むれども、大海をおさめず。阿含経は井江等・露涓をおさめたる小河のごとし。方等経・阿弥陀経・大日経・華厳経等は小河をおさむる大河なり。法華経は露涓・井江・小河・大河・天雨等の一切の水を一渧ももらさぬ大海なり。譬えば、身の熱き者の大寒水の辺にいねつればすずしく小水の辺に臥しぬれば苦しきがごとし。五逆・謗法の大一闡提人、阿含・華厳・観経・大日経等の小水の辺にては大罪の大熱さんじがたし。法華経の大雪山の上に臥しぬれば、五逆・誹謗・一闡提等の大熱たちまちに散ずべし。されば、愚者は必ず法華経を信ずべし。各々経々の題目は易きこと同じといえども、愚者と愚者との唱うる功徳は天地雲泥なり。譬えば、大綱は大力も切りがたし、小力なれども小刀をもてばたやすくこれをきる。譬えば、堅石をば鈍刀をもてば大力も破りがたし、利剣をもてば小力も破りぬべし。譬えば、薬はしらねども服すれば病やみぬ、食は服すれども病やまず。譬えば、仙薬は命をのべ、凡薬は病をいやせども命をのべず。
疑って云わく、二十八品の中にいずれか肝心なる。
答えて云わく、あるいは云わく、品々皆事に随って肝心なり。あるいは云わく、方便品・寿量品肝心なり。あるいは云わく、方便品肝心なり。あるいは云わく、寿量品肝心なり。あるいは云わく、開示悟入肝心なり。あるいは云わく、実相肝心なり。
問うて云わく、汝が心いかん。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(010)報恩抄 | 建治2年(’76)7月21日 | 55歳 | 浄顕房・義浄房 |