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はおもわねども、人は遁世とこそおもうらんに、ゆえもなくはしり出ずるならば、末もとおらずと人おもうべし。されば、いかにおもうとも、まいるべきにあらず。ただし各々二人は日蓮が幼少の師匠にておわします。勤操僧正・行表僧正の伝教大師の御師たりしが、かえりて御弟子とならせ給いしがごとし。日蓮が景信にあだまれて清澄山を出でしに、おいてしのび出でられたりしは、天下第一の法華経の奉公なり。後生は疑いおぼすべからず。
問うて云わく、法華経一部八巻二十八品の中に、何物か肝心なる。
答えて云わく、華厳経の肝心は大方広仏華厳経、阿含経の肝心は仏説中阿含経、大集経の肝心は大方等大集経、般若経の肝心は摩訶般若波羅蜜経、双観経の肝心は仏説無量寿経、観経の肝心は仏説観無量寿経、阿弥陀経の肝心は仏説阿弥陀経、涅槃経の肝心は大般涅槃経。かくのごとくの一切経は皆、如是我聞の上の題目その経の肝心なり。大は大につけ、小は小につけて、題目をもって肝心とす。大日経・金剛頂経・蘇悉地経等も、またまたかくのごとし。仏もまたかくのごとし。大日如来・日月灯明仏・燃灯仏・大通仏・雲雷音王仏、これらもまた名の内にその仏の種々の徳をそなえたり。今の法華経も、またもってかくのごとし。如是我聞の上の妙法蓮華経の五字は、即ち一部八巻の肝心、またまた一切経の肝心、一切の諸の仏・菩薩・二乗・天・人・修羅・竜神等の頂上の正法なり。
問うて云わく、南無妙法蓮華経と心もしらぬ者の唱うると、南無大方広仏華厳経と心もしらぬ者の唱うると、斉等なりや、浅深の功徳差別せりや。
答えて云わく、浅深等あり。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(010)報恩抄 | 建治2年(’76)7月21日 | 55歳 | 浄顕房・義浄房 |