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『日蓮大聖人御書全集 新版』全文検索

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報恩抄

 建治2年(ʼ76)7月21日 55歳 浄顕房・義浄房

    日蓮これを撰す。
 夫れ、老狐は塚をあとにせず、白亀は毛宝が恩をほうず。畜生すら、かくのごとし。いおうや人倫をや。されば、古の賢者・予譲といいし者は剣をのみて智伯が恩にあて、こう演と申せし臣下は腹をさいて衛の懿公が肝を入れたり。いかにいおうや、仏教をならわん者の、父母・師匠・国恩をわするべしや。
 この大恩をほうぜんには、必ず仏法をならいきわめ智者とならで叶うべきか。譬えば、衆盲をみちびかんには生盲の身にては橋河をわたしがたし、方・風を弁えざらん大舟は諸商を導いて宝山にいたるべしや。仏法を習い極めんとおもわば、いとまあらずば叶うべからず。いとまあらんとおもわば、父母・師匠・国主等に随っては叶うべからず。是非につけて、出離の道をわきまえざらんほどは、父母・師匠等の心に随うべからず。この義は、諸人おもわく、顕にもはずれ冥にも叶うまじとおもう。しかれども、外典の孝経にも、父母・主君に随わずして忠臣・孝人なるようもみえたり。内典の仏経に云わく「恩を棄てて無為に入るは、真実に恩を報ずる者なり」等云々。比干が王に随わずして賢人