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その上、遠江国より甲州波木井郷身延山へは、道三百余里に及べり。宿々のいぶせさ、嶺に昇れば日月をいただき、谷へ下れば穴へ入るかと覚ゆ。河の水は矢を射るがごとく早し。大石ながれて人馬むかい難し。船あやうくして紙を水にひたせるがごとし。男は山がつ、女は山母のごとし。道は縄のごとくほそく、木は草のごとくしげし。かかる所へ尋ね入らせ給いて候こと、いかなる宿習なるらん。釈迦仏は御手を引き、帝釈は馬となり、梵王は身に随い、日月は眼となりかわらせ給いて入らせ給いけるにや。ありがたし、ありがたし。
事多しと申せども、このほど風おこりて身苦しく候あいだ、留め候い畢わんぬ。
弘安二年己卯五月二日 日蓮 花押
新池殿御返事
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(399)新池殿御消息 | 弘安2年(’79)5月2日 | 58歳 | 新池殿 |