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衆生身心御書
建治期
衆生の身心をとかせ給う。その衆生の心にのぞむとてとかせ給えば、人の説なれども、衆生の心をいでず。かるがゆえに、随他意の経となづけたり。譬えば、さけもこのまぬおやの、きわめてさけをこのむいとおしき子あり。かつはいとおしみ、かつは心をとらんがために、かれにさけをすすめんがために、父母も酒をこのむよしをするなり。しかるを、はかなき子は、父母も酒をこのみ給うとおもえり。
提謂経と申す経は、人天のことをとけり。阿含経と申す経は、二乗のことをとかせ給う。華厳経と申す経は、菩薩のことなり。方等・般若経等は、あるいは阿含経・提謂経ににたり。あるいは華厳経にもにたり。これらの経々は、末代の凡夫これをよみ候えば仏の御心に叶うらんとは行者はおもえども、くわしくこれをろんずれば、己が心をよむなり。己が心は本よりつたなき心なれば、はかばかしきことなし。
法華経と申すは、随自意と申して、仏の御心をとかせ給う。仏の御心はよき心なるゆえに、たといしらざる人も、この経をよみたてまつれば利益はかりなし。麻の中のよもぎ、つつの中のくちなわ、
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(393)衆生身心御書 | 建治期 |