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『日蓮大聖人御書全集 新版』全文検索

(377)

松野殿御返事(三界無安の事)

 建治4年(ʼ78)2月13日 57歳 松野六郎左衛門

 種々の物、送り給び候い畢わんぬ。山中のすまい思い遣らせ給いて、雪の中ふみ分けて御訪い候こと、御志、定めて法華経・十羅刹も知ろしめし候らん。
 さては、涅槃経に云わく「人命の停まらざることは山水にも過ぎたり。今日は存すといえども、明日は保ち難し」文。摩耶経に云わく「譬えば旃陀羅の羊を駆って屠家に至るがごとく、人命もまたかくのごとく歩々死地に近づく」文。法華経に云わく「三界は安きことなし、なお火宅のごとし。衆苦は充満して、はなはだ怖畏すべし」等云々。これらの経文は、我らが慈父・大覚世尊、末代の凡夫をいさめ給い、いとけなき子どもをさし驚かし給える経文なり。
 しかりといえども、須臾も驚く心なく、刹那も道心を発さず、野辺に捨てられなば一夜の中にはだかになるべき身をかざらんがために、いとまを入れ衣を重ねんとはげむ。命終わりなば、三日の内に水と成って流れ、塵と成って地にまじわり、煙と成って天にのぼり、あともみえずなるべき身を養わんとて、多くの財をたくわう。このことわりは事ふり候いぬ。
 ただし、当世の体こそ哀れに候え。日本国、数年の間、打ち続きけかちゆきて、衣食たえ、畜るい