SOKAnetトップ

『日蓮大聖人御書全集 新版』全文検索

 その時、雪山童子の思い給わく「我、法のために身を捨てて、この偈を聞き畢わらん」と思って、「汝が食物ここに有り。外に求むべきにあらず。我が身いまだ死せず。その肉あたたかなり。我が身いまだ寒えず。その血あたたかならん。願わくは、残りの偈を説き給え。この身を汝に与えん」と云う。時に鬼神、大いに瞋って云わく「誰か汝が語を実とは憑むべき。聞いて後には誰をか証人として糾さん」と云う。雪山童子の云わく「この身は終に死すべし。いたずらに死せん命を法のために投げば、きたなくけがらわしき身を捨てて、後生は必ず覚りを開き、仏となり、清妙なる身を受くべし。土器を捨てて宝器に替うるがごとくなるべし。梵天・帝釈・四大天王・十方の諸の仏菩薩を皆証人とせん。我さらに偽るべからず」とのたまえり。その時、鬼神少し和らいで、「もし汝が云うところ実ならば、偈を説かん」と云う。その時、雪山童子大いに悦んで、身に着たる鹿の皮を脱いで法座に敷き、頭を地に付け、掌を合わせ跪き、「ただ願わくは、我がために残りの偈を説き給え」と云って、至心に深く敬い給う。さて、法座に登り、鬼神、偈を説いて云わく「生滅滅し已わって、寂滅を楽となす」。
 この時、雪山童子これを聞き、悦び貴み給うこと限りなく、後世までも忘れじと、度々誦して深くその心にそめ、「悦ばしきところは、これ仏の説き給えるにも異ならず。歎かわしきところは、我一人のみ聞いて人のために伝えざらんことを」と深く思って、石の上・壁の面・路の辺の諸木ごとにこの偈を書き付け、「願わくは、後に来らん人、必ずこの文を見、その義理をさとり、実の道に入れ」と云い畢わって、即ち高き木に登って、鬼神の前に落ち給えり。