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『日蓮大聖人御書全集 新版』全文検索

男は五戒、女は十戒、法師は二百五十戒、尼は五百戒を持って三千の威儀を具すべしと説きたれば、末代の我らかなうべしともおぼえねば、母の恩報じがたし。いわんや、この経にもきらわれたり。方等・般若、四十余年の経々に皆、女人をきらわれたり。ただ転女成仏経・観経等にすこし女人の得道の経文有りといえども、ただ名のみ有って実なきなり。その上、未顕真実の経なれば、いかんがありけん。四十余年の経々に皆、女人を嫌われたり。また最後に説き給いたる涅槃経にも女人を嫌われたり。
 いずれか四恩を報ずる経有りと尋ぬれば、法華経こそ女人成仏する経なれば、八歳の竜女成仏し、仏の姨母・憍曇弥、耶輸陀羅比丘尼、記別にあずかりぬ。されば、我らが母はただ女人の体にてこそ候え、畜生にもあらず、蛇身にもあらず。八歳の竜女だにも仏になる、いかんぞ、この経の力にて我が母の仏にならざるべき。されば、法華経を持つ人は、父と母との恩を報ずるなり。我が心には報ずると思わねども、この経の力にて報ずるなり。
 しかるあいだ、釈迦・多宝等の十方無量の仏、上行・地涌等の菩薩も、普賢・文殊等の迹化の大士も、舎利弗等の諸大声聞も、大梵天王・日月等の明主諸天も、八部王も十羅刹女等も、日本国中の大小の諸神も、総じて、この法華経を強く信じまいらせて余念なく一筋に信仰する者をば、影の身にそうがごとく守らせ給い候なり。相構えて相構えて、心を翻さず一筋に信じ給うならば、「現世安穏にして、後に善処に生ず」なるべし。恐々謹言。
    日蓮 花押
 上野殿