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『日蓮大聖人御書全集 新版』全文検索

 子ならずば、いかでか尋ねゆくべき。目連尊者は母の餓鬼の苦をすくい、浄蔵・浄眼は父の邪見をひるがえす。これよき子の親の財となるゆえぞかし。
 しかるに、故阿仏聖霊は、日本国北海の島いびすのみなりしかども、後生をおそれて出家して後生を願いしが、流人・日蓮に値って法華経を持ち、去年の春、仏になりぬ。尸陀山の野干は、仏法に値って生をいとい死を願って帝釈と生まれたり。阿仏上人は濁世の身を厭って仏になり給いぬ。その子・藤九郎守綱は、この跡をつぎて一向法華経の行者となりて、去年は七月二日、父の舎利を頸に懸け、一千里の山海を経て、甲州波木井身延山に登って法華経の道場にこれをおさめ、今年はまた七月一日、身延山に登って慈父のはかを拝見す。子にすぎたる財なし、子にすぎたる財なし。南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。
  七月二日    日蓮 花押
 故阿仏房尼御前御返事
  こうの入道殿の尼ごぜんのこと、なげき入って候。また、こいしこいしと申しつたえさせ給え。

  追って申す。絹の染め袈裟一つ、まいらせ候。豊後房に申さるべし。既に法門、日本国にひろまりて候。北陸道をば豊後房なびくべきに、学生ならでは叶うべからず。九月十五日已前にいそぎいそぎまいるべし。かずの聖教をば、日記のごとく、たんば房にいそぎいそぎつかわすべし。山伏房をば、これより申すにしたがいて、これへはわたすべし。山伏ふびんにあたられ候こと、悦び入って候。