SOKAnetトップ

『日蓮大聖人御書全集 新版』全文検索

につなぎつけぬ。なにとなけれども我が国はこいしき上、妻子ことにこいしくしのびがたかりしかども、ゆるすことなかりしかば、かえることなし。またかえりたりとも、このすがたにては由なかるべし。ただ朝夕にはなげきのみしてありしほどに、一人ありし子、父のまちどきすぎしかば、「人にや殺されたるらん、また病にや沈むらん、子の身として、いかでか父をたずねざるべき」といでたちければ、母なげくらく「男も他国にてかえらず。一人の子もすててゆきなば、我いかんがせん」となげきしかども、子、ちちのあまりにこいしかりしかば、安息国へ尋ねゆきぬ。
 ある小家にやどりて候いしかば、家の主申すよう「あらふびんや、わどのはおさなきものなり。しかもみめかたち人にすぐれたり。我に一人の子ありしが、他国にゆきてしにやしけん、またいかにてやあるらん。我が子のことをおもえば、わどのをみて、めもあてられず。いかにと申せば、この国は大いなるなげき有り。この国の大王、あまり馬をこのませ給いて、不思議の薬を用い給えり。一葉せばき草をくわすれば、人、馬となる。葉広き草をくわすれば、馬、人となる。近くも他国の商人の有りしを、この草をくわせて馬となして、第一のみまやに秘蔵してつながれたり」と申す。この男これをきいて、「さては我が父は馬と成ってけり」とおもいて、返って問うて云わく「その馬は毛はいかに」とといければ、家の主答えて云わく「栗毛なる馬の、肩白くまだらなり」と申す。このもの、このことをききて、とこうはからいて王宮に近づき、葉広き草をぬすみとりて、我が父の馬になりたりしに食わせしかば、本のごとく人となりぬ。その国の大王、不思議なるおもいをなして、孝養の者なりとて父を子にあずけ、それよりついに人を馬となすこと、とどめられぬ。