『日蓮大聖人御書全集　新版』全文検索

戒の僧、有智・無智にもはずれたる牛羊のごとくなる者なり。いかにしてか申し初めけん、上行菩薩の出現して弘めさせ給うべき妙法蓮華経の五字を、先立って、ねごとのように心にもあらず南無妙法蓮華経と申し初めて候いしほどに唱うるなり。詮ずるところ、よきことにや候らん、また悪しきことにや侍るらん、我もしらず、人もわきまえがたきか。
　ただし、法華経を開いて拝し奉るに、この経をば、等覚の菩薩、文殊・弥勒・観音・普賢までも、たやすく一句一偈をも持つ人なし。「ただ仏と仏とのみ」と説き給えり。されば、華厳経は最初の頓説・円満の経なれども、法慧等の四菩薩説かせ給う。般若経はまた華厳経程こそなけれども、当分は最上の経ぞかし。しかれども、須菩提これを説く。ただ法華経ばかりこそ、三身円満の釈迦の金口の妙説にては候なれ。されば、普賢・文殊なりとも、たやすく一句一偈をも説き給うべからず。いかにいわんや、末代の凡夫、我ら衆生は、一字二字なりとも、自身には持ちがたし。
　諸宗の元祖等、法華経を読み奉れば、各々その弟子等は「我が師は法華経の心を得給えり」と思えり。しかれども、詮を論ずれば、慈恩大師は深密経・唯識論を師として法華経をよみ、嘉祥大師は般若経・中論を師として法華経をよむ。杜順・法蔵等は華厳経・十住毘婆沙論を師として法華経をよみ、善無畏・金剛智・不空等は大日経を師として法華経をよむ。これらの人々は、各法華経をよめりと思えども、いまだ一句一偈もよめる人にはあらず。詮を論ずれば、伝教大師ことわりて云わく「法華経を讃むといえども、還って法華の心を死す」云々。例せば、外道は仏経をよめども外道と同じ、蝙蝠が昼を夜と見るがごとし。また赤き面の者は、白き鏡も赤しと思い、太刀に顔をうつせるもの、