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破る。一切の真言師は犬と修羅とのごとく、法華経の行者は日輪と師子とのごとし。
氷は、日輪の出でざる時は、堅きこと金のごとし。火は、水のなき時は、あつきこと鉄をやけるがごとし。しかれども、夏の日にあいぬれば堅氷のとけやすさ、あつき火の水にあいてきえやすさ。一切の真言師は、気色のとうとげさ、智慧のかしこげさ、日輪をみざる者の堅き氷をたのみ、水をみざる者の火をたのめるがごとし。
当世の人々の蒙古国をみざりし時のおごりは、御覧ありしようにかぎりもなかりしぞかし。去年の十月よりは、一人もおごる者なし。
きこしめししように、日蓮一人ばかりこそ申せしが、よせてだにきたるほどならば、面をあわする人もあるべからず。ただ、さるの犬をおそれ、かえるの蛇をおそるるがごとくなるべし。
これひとえに、釈迦仏の御使いたる法華経の行者を、一切の真言師・念仏者・律僧等ににくませて、我と損じ、ことさらに天のにくまれをかぼれる国なる故に、皆人臆病になれるなり。譬えば、火が水をおそれ、木が金をおじ、雉が鷹をみて魂を失い、ねずみが猫にせめらるるがごとし。一人もたすかる者あるべからず。その時は、いかがせさせ給うべき。
軍には大将軍を魂とす。大将軍おくしぬれば、歩兵臆病なり。女人は夫を魂とす。夫なければ、女人魂なし。この世に夫ある女人すら、世の中渡りがとうみえて候に、魂もなくして世を渡らせ給うが、魂ある女人にもすぐれて心中かいがいしくおわする上、神にも心を入れ、仏をもあがめさせ給えば、人に勝れておわする女人なり。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(242)乙御前御消息 | 建治元年(’75)8月4日 | 54歳 | 日妙・乙御前 |