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『日蓮大聖人御書全集 新版』全文検索

不妄語にはあらず。一切経は皆、仏の金口の説、不妄語の御言なり。しかれども、法華経に対しまいらすれば、妄語のごとし、綺語のごとし、悪口のごとし、両舌のごとし。この御経こそ実語の中の実語にて候え。実語の御経をば、正直の者、心得候なり。今、実語の女人にておわすか。
 当に知るべし、須弥山をいただきて大海をわたる人をば見るとも、この女人をば見るべからず。砂をむして飯となす人をば見るとも、この女人をば見るべからず。当に知るべし、釈迦仏・多宝仏・十方分身の諸仏、上行・無辺行等の大菩薩、大梵天王・帝釈・四王等、この女人をば、影の身にそうがごとくまぼり給うらん。日本第一の法華経の行者の女人なり。故に、名を一つつけたてまつりて、不軽菩薩の義になぞらえん。日妙聖人等云々。
 相州鎌倉より北国佐渡国、その中間一千余里に及べり。山海はるかにへだて、山は峨々、海は濤々、風雨、時にしたがうことなし。山賊・海賊充満せり。すくすく、とまりとまり、民の心、虎のごとし、犬のごとし。現身に三悪道の苦をふるか。その上、当世の乱世、去年より謀叛の者国に充満し、今年二月十一日合戦。それより今五月のすえ、いまだ世間安穏ならず。しかれども、一りの幼子あり。あずくべき父もたのもしからず。離別すでに久し。
 かたがた筆も及ばず、心弁えがたければ、とどめ畢わんぬ。
  文永九年太歳壬申五月二十五日    日蓮 花押
 日妙聖人