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いで宝塔を開き、多宝如来に並び給う。譬えば、青天に日月の並べるがごとし。帝釈と頂生王との善法堂に在すがごとし。この界の文殊等、他方の観音等、十方の虚空に雲集せること、星の虚空に充満するがごとし。この時、この土には、華厳経の七処八会、十方世界の台上の盧舎那仏の弟子、法慧・功徳林・金剛幢・金剛蔵等の十方刹土の塵点数の大菩薩雲集せり。方等の大宝坊雲集の仏菩薩、般若経の千仏・須菩提・帝釈等、大日経の八葉九尊の四仏四菩薩、金剛頂経の三十七尊等、涅槃経の俱尸那城へ集会せさせ給いし十方法界の仏菩薩をば、文殊・弥勒等互いに見知して御物語これありしかば、これらの大菩薩は出仕に物狎れたりと見え候。
今この四菩薩出でさせ給いて後、釈迦如来には九代の本師、三世の仏の御母にておわする文殊師利菩薩も、一生補処とののしらせ給う弥勒等も、この菩薩に値いぬれば物とも見えさせ給わず。譬えば、山がつが月卿に交わり、猿猴が師子の座に列なるがごとし。
この人々を召して妙法蓮華経の五字を付嘱せさせ給いき。付嘱もただならず、十神力を現じ給う。釈迦は広長舌を色界の頂に付け給えば、諸仏もまたまたかくのごとく、四百万億那由他の国土の虚空に、諸仏の御舌、赤虹を百千万億並べたるがごとく充満せしかば、おびただしかりしことなり。かくのごとく不思議の十神力を現じて、結要付嘱と申して、法華経の肝心を抜き出だして四菩薩に譲り、「我が滅後に十方の衆生に与えよ」と慇懃に付嘱して、その後また一つの神力を現じて、文殊等の自界他方の菩薩・二乗・天・人・竜神等には、一経乃至一代聖教をば付嘱せられしなり。
本より影の身に随って候ようにつかせ給いたりし迦葉・舎利弗等にも、この五字を譲り給わず。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(196)呵責謗法滅罪抄 | 文永10年(’73) | 52歳 | (四条金吾) |