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ぎて四壁とし、自死の鹿の皮を衣とし、春は蕨を折って身を養い、秋は果を拾って命を支え候いつるほどに、去年十一月より雪降り積んで、改まる年の正月、今に絶ゆることなし。庵室は七尺、雪は一丈、四壁は氷を壁とし、軒のつららは道場荘厳の瓔珞の玉に似たり。内には雪を米と積む。本より人も来らぬ上、雪深くして道塞がり、問う人もなき処なれば、現在に八寒地獄の業を身につぐのえり。生きながら仏には成らずして、また寒苦鳥と申す鳥にも相似たり。頭は剃ることなければ、うずらのごとし。衣は氷にとじられて、鴛鴦の羽を氷の結べるがごとし。
かかる処へは、古昵びし人も問わず、弟子等にも捨てられて候いつるに、この御器を給わって、雪を盛って飯と観じ、水を飲んでこんずと思う。志のゆくところ、思い遣らせ給え。またまた申すべく候。恐々謹言。
弘安三年正月二十七日 日蓮 花押
秋元太郎兵衛殿御返事
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(170)秋元御書 | 弘安3年(’80)1月27日 | 59歳 | 秋元太郎 |