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を開眼し候えば、日本国の一切の寺塔の仏像等、形は仏に似たれども、心は仏にあらず、九界の衆生の心なり。愚癡の者を智者とすること、これより始まれり。国のついえのみ入って祈りとならず。還って仏変じて魔となり鬼となり国主乃至万民をわずらわす、これなり。今、法華経の行者と檀那との出来する故に、百獣の師子王をいとい、草木の寒風をおそるるがごとし。これはしばらくおく。
法華経は何故ぞ諸経に勝れて一切衆生のために用いることなるぞと申すに、譬えば、草木は大地を母とし、虚空を父とし、甘雨を食とし、風を魂とし、日月をめのととして生長し、花さき菓なるがごとく、一切衆生は実相を大地とし、無相を虚空とし、一乗を甘雨とし、已今当第一の言を大風とし、定慧力荘厳を日月として妙覚の功徳を生長し、大慈大悲の花さかせ、安楽仏果の菓なって、一切衆生を養い給う。
一切衆生、また食するによりて寿命を持つ。食に多数あり。土を食し、水を食し、火を食し、風を食する衆生もあり。求羅と申す虫は風を食す。うぐろもちと申す虫は土を食す。人の皮肉・骨髄等を食する鬼神もあり。尿糞等を食する鬼神もあり。寿命を食する鬼神もあり。声を食する鬼神もあり。石を食するいお、くろがねを食するばくもあり。地神・天神・竜神・日月・帝釈・大梵王・二乗・菩薩・仏は仏法をなめて身とし、魂とし給う。
例せば、乃往過去に輪陀王と申す大王ましましき。一閻浮提の主なり、賢王なり。この王はなに物をか供御とし給うと申せば、白馬の鳴く声をきこしめして、身も生長し身心も安穏にして、よをたもち給う。れいせば、蝦蟇と申す虫の、母のなく声を聞いて生長するがごとし。秋のはぎのしかの鳴く
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(167)曽谷殿御返事(輪陀王の事) | 弘安2年(’79)8月17日 | 58歳 | 曽谷道宗 |