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曽谷殿御返事(成仏用心抄)
建治2年(ʼ76)8月3日 55歳 曽谷殿
夫れ、法華経第一の方便品に云わく「諸仏の智慧は甚深無量なり」云々。釈に云わく「境淵無辺なるが故に甚深と云い、智水測り難きが故に無量と云う」。
そもそも、この経釈の心は、仏になる道はあに境智の二法にあらずや。されば、境というは万法の体を云い、智というは自体顕照の姿を云うなり。しかるに、境の淵ほとりなくふかき時は、智慧の水ながるることつつがなし。この境智合しぬれば、即身成仏するなり。法華以前の経は境智各別にして、しかも権教方便なるが故に成仏せず。今、法華経にして境智一如なるあいだ、開示悟入の四仏知見をさとりて成仏するなり。この内証に声聞・辟支仏さらに及ばざるところを、次下に「一切の声聞・辟支仏の知ること能わざるところなり」と説かるるなり。
この境智の二法は何物ぞ。ただ南無妙法蓮華経の五字なり。この五字を、地涌の大士を召し出だして結要付嘱せしめ給う。これを本化付嘱の法門とは云うなり。しかるに、上行菩薩等、末法の始めの五百年に出生して、この境智の二法たる五字を弘めさせ給うべしと見えたり。経文赫々たり、明々たり。誰かこれを論ぜん。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(165)曽谷殿御返事(成仏用心抄) | 建治2年(’76)8月3日 | 55歳 | 曽谷殿 |