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迦仏となる。この仏、三十二相を具し、面貌満月のごとし。大音声を出だして説いて云わく『たとい、法界に遍き、善を断ちたる諸の衆生も、一たび法華経を聞かば、決定して菩提を成ぜん』云々。この文字の中より大雨降って無間地獄の炎をけす。閻魔王は冠をかたぶけて敬い、獄卒は杖をすてて立てり。一切の罪人はいかなることぞとあわてたり。また法の一字来れり。前のごとし。また蓮、また華、また経、かくのごとく、六十四字来って六十四仏となりぬ。無間地獄に仏六十四体ましませば、日月の六十四天に出でたるがごとし。天より甘露をくだして罪人に与う。『そもそも、これらの大善はいかなることぞ』と、罪人等、仏に問い奉りしかば、六十四の仏の答えに云わく『我らが金色の身は栴檀宝山よりも出現せず。これは無間地獄にある烏竜が子の遺竜が書ける法華経八巻の題目の八八六十四の文字なり。彼の遺竜が手は烏竜が生めるところの身分なり。書ける文字は烏竜が書くにてあるなり』と説き給いしかば、無間地獄の罪人等は、『我らも娑婆にありし時は、子もあり、婦もあり、眷属もありき。いかにとぶらわぬやらん、また訪えども善根の用の弱くして来らぬやらんと、歎けども歎けども甲斐なし。あるいは一日二日、一年二年、半劫一劫になりぬるに、かかる善知識にあい奉って助けられぬる』とて、我らも眷属となりて忉利天にのぼるか、まず汝をおがまんとて来るなり」とかたりしかば、夢の中にうれしさ身にあまりぬ。別れて後、またいつの世にか見んと思いし親のすがたをも見奉り、仏をも拝し奉りぬ。
六十四仏の物語に云わく「我らは別の主なし。汝は我らが檀那なり。今日よりは汝を親と守護すべし。汝おこたることなかれ。一期の後は必ず来って都率の内院へ導くべし」と御約束ありしかば、遺
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(164)法蓮抄 | 建治元年(’75)4月 | 54歳 | 曽谷教信 |