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『日蓮大聖人御書全集 新版』全文検索

(155)

太田左衛門尉御返事

 弘安元年(ʼ78)4月23日 57歳 大田乗明

 当月十八日の御状、同じき二十三日の午剋ばかりに到来す。やがて拝見仕り候い畢わんぬ。御状のごとく、御布施、鳥目十貫文・太刀・五明一本・焼香二十両、給び候。
 そもそも、専ら御状に云わく「某、今年は五十七に罷り成り候えば、大厄の年かと覚え候。なにやらんして正月の下旬の比より卯月のこの比に至り候まで、身心に苦労多く出来候。本より、人身を受くる者は必ず身心に諸病相続して五体に苦労あるべしと申しながら、更に」云々。
 このこと最第一の歎きのことなり。十二因縁と申す法門あり。意は、我らが身は諸苦をもって体となす。されば、先世に業を造る故に諸苦を受け、先世の集まれる煩悩が諸苦を招き集め候。過去の二因、現在の五果、現在の三因、未来の両果とて、三世次第して一切の苦果を感ずるなり。在世の二乗が、これらの諸苦を失わんとて、空理に沈み灰身滅智して、菩薩の勤行精進の志を忘れ、空理を証得せんことを真極と思うなり。仏、方等の時、これらの心地を弾呵し給いしなり。しかるに、生をこの三界に受けたる者、苦を離るる者あらんや。羅漢の応供すら、なおかくのごとし。いわんや底下の凡夫をや。さてこそ、いそぎ生死を離るべしと勧め申し候え。これら体の法門はさて置きぬ。