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等類、ことごとく仏の前において、妙法華経の一偈一句を聞いて、一念も随喜せば、我は皆ために当に阿耨多羅三藐三菩提を得べしと授記す』と」文。
諸経のごとくんば、人には五戒、天には十善、梵には慈悲喜捨、魔王には一無遮、比丘には二百五十、比丘尼には五百戒、声聞には四諦、縁覚には十二因縁、菩薩には六度なり。譬えば、水の器の方円に随い、象の敵に随って力を出だすがごとし。法華経はしからず。八部四衆、皆一同に法華経を演説す。譬えば、定木の曲がりを削り、師子王の剛弱を嫌わずして大力を出だすがごとし。
この明鏡をもって一切経を見聞するに、大日の三部、浄土の三部等隠れ無し。しかるを、いかにやしけん、弘法・慈覚・智証の御義を本としけるほどに、この義すでに隠没して、日本国四百余年なり。珠をもって石にかえ、栴檀を凡木にうれり。
仏法ようやく顚倒しければ、世間もまた濁乱せり。仏法は体のごとし、世間はかげのごとし。体曲がれば影ななめなり。
幸いなるは我が一門、仏意に随って自然に薩般若海に流入す。苦しきは世間の学者、随他意を信じて苦海に沈まん。委細の旨、またまた申すべく候。恐々謹言。
五月二十六日 日蓮 花押
富木殿御返事
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(145)諸経と法華経と難易の事 | 弘安3年(’80)5月26日 | 59歳 | 富木常忍 |