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漢土に入り給い、玄宗皇帝に秘法を授け奉り、旱魃の時、雨の祈りをし給いしかば、三日が内に天より雨ふりしなり。この三蔵は、千二百余尊の種子・尊形・三摩耶、一事もくもりなし。当世の東寺等の一切の真言宗、一人もこの御弟子にあらざるはなし。
しかるに、この三蔵、一時、頓死ありき。数多の獄卒来って鉄縄七すじ懸けたてまつり、閻魔王宮に至る。この事、第一の不審なり。いかなる罪あって、この責めに値い給いけるやらん。今生は十悪は有りもやすらん、五逆罪は造らず。過去を尋ぬれば、大国の王となり給うことを勘うるに、十善戒を堅く持ち、五百の仏陀に仕え給うなり。何の罪かあらん。その上、十三にして位を捨てて出家し給いき。閻浮第一の菩提心なるべし。過去・現在の軽重の罪も滅すらん。その上、月氏に流布するところの経論・諸宗を習い極め給いしなり。何の罪か消えざらん。また真言密教は他に異なる法なるべし。一印・一真言なれども、手に結び口に誦すれば、三世の重罪も滅せずということなし。無量俱低劫の間作るところの衆の罪障も、この曼荼羅を見れば、一時に皆消滅すとこそ申し候え。いわんや、この三蔵は、千二百余尊の印・真言を諳に浮かべ、即身成仏の観道鏡に懸かり、両部灌頂の御時、大日覚王となり給いき。いかにして閻魔の責めに預かり給いけるやらん。
日蓮は、顕密二道の中に勝れさせ給いて我ら易々と生死を離るべき教えに入らんと思い候いて、真言の秘教をあらあら習い、このことを尋ね勘うるに、一人として答えをする人なし。この人悪道を免れずば、当世の一切の真言ならびに一印・一真言の道俗、三悪道の罪を免るべきや。
日蓮このことを委しく勘うるに、二つの失有って閻魔王の責めに預かり給えり。一には、大日経は
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(097)善無畏三蔵抄 | 文永7年(’70) | 49歳 | 義浄房・浄顕房 |