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『日蓮大聖人御書全集 新版』全文検索

 謀を帷帳の中に回らし、勝つことを千里の外に決せしものなり。
 夫れ、未萌を知る者は、六正の聖臣なり。法華を弘むる者は、諸仏の使者なり。しかるに、日蓮、忝くも鷲嶺・鶴林の文を開いて鵝王・烏瑟の志を覚り、あまつさえ、将来を勘えたるに、ほぼ符合することを得たり。先哲に及ばずといえども、定めて後人には希なるべき者なり。法を知り国を思うの志もっとも賞せらるべきのところ、邪法・邪教の輩、讒奏・讒言するのあいだ、久しく大忠を懐いて、しかもいまだ微望を達せず。あまつさえ、不快の見参に罷り入ること、ひとえに難治の次第を愁うるものなり。
 伏して惟んみれば、泰山に昇らずんば天の高きを知らず、深谷に入らずんば地の厚きを知らず。よって御存知のために立正安国論一巻これを進覧す。勘え載するところの文は九牛の一毛なり。いまだ微志を尽くさざるのみ。
 そもそも貴辺は当時天下の棟梁なり。何ぞ国中の良材を損ぜんや。早く賢慮を回らして、すべからく異敵を退くべし。世を安んじ国を安んずるを、忠となし孝となす。これひとえに、身のためにこれを述べず、君のため、仏のため、神のため、一切衆生のために言上せしむるところなり。恐々謹言。
  文永八年九月十二日    日蓮 花押
 謹上 平左衛門尉殿