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て説かせ給わざりしかば、大慳貪の人をば、これより外に尋ぬべからず。
つらつら事の心を案ずるに、仏は二百五十戒をも破り、十重禁戒をも犯し給う者なり。仏、法華経を説かせ給わずば、十方の一切衆生を不孝に堕とし給う大科まぬかれがたし。故に、天台大師、このことを宣べて云わく「過は則ち仏に属す」云々。ある人云わく「これ十方三世の仏の本誓に違背し、衆生を欺誑すること有り」等云々。
夫れ、四十余年の大小・顕密の一切経ならびに真言・華厳・三論・法相・俱舎・成実・律・浄土・禅宗等の仏・菩薩・二乗・梵釈・日月および元祖等は、法華経に随うことなくば、いかなる孝養をなすとも、「我は則ち慳貪に堕せん」の科脱るべからず。故に、仏、本願に趣いて法華経を説き給いき。しかるに、法華経の御座には父母ましまさざりしかば、親の生まれてまします方便土と申す国へ贈り給いて候なり。その御言に云わく「しかして、彼の土において、仏の智慧を求め、この経を聞くことを得ん」等云々。この経文は、智者ならん人々は心をとどむべし、教主釈尊の父母の御ために説かせ給いて候経文なり。この法門は、ただ天台大師と申せし人ばかりこそ知っておわし候いけれ。その外の諸宗の人々知らざることなり。日蓮が心中に第一と思う法門なり。
父母に御孝養の意あらん人々は、法華経を贈り給うべし。教主釈尊の父母の御孝養には、法華経を贈り給いて候。
日蓮が母存生しておわせしに、仰せ候いしことをもあまりにそむきまいらせて候いしかば、今おくれまいらせて候があながちにくやしく覚えて候えば、一代聖教を撿えて母の孝養を仕らんと存じ候
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(401)刑部左衛門尉女房御返事 | 弘安3年(’80)10月21日 | 59歳 | 刑部左衛門尉の妻 |