『日蓮大聖人御書全集　新版』全文検索

　地獄おそるべし、炎をもって家とす。餓鬼悲しむべし、飢渇にうえて子を食らう。修羅は闘諍なり。畜生は残害とて互いに殺しあう。紅蓮地獄と申すは、くれないのはちすとよむ。その故は、余りに寒につめられてこごむあいだ、せなかわれて肉の出でたるが、紅の蓮に似たるなり。いわんや大紅蓮をや。かかる悪所にゆけば、王位・将軍も物ならず。獄卒の呵責にあえる姿は、猿をまわすに異ならず。この時は、いかでか名聞名利・我慢偏執有るべきや。
　思しめすべし。法華経をしれる僧を不思議の志にて一度も供養しなば、悪道に行くべからず。いかにいわんや、十度二十度、乃至五年十年・一期生の間供養せる功徳をば、仏の智慧にても知りがたし。この経の行者を一度供養する功徳は、釈迦仏を直ちに八十億劫が間、無量の宝を尽くして供養せる功徳に百千万億勝れたりと仏は説かせ給いて候。この経にあい奉りぬれば、悦び身に余り、左右の眼に涙浮かびて、釈尊の御恩報じ尽くしがたし。かようにこの山まで度々の御供養は、法華経ならびに釈迦尊の御恩を報じ給うに成るべく候。いよいよはげませ給うべし。懈ることなかれ。
　皆人のこの経を信じ始むる時は信心有るように見え候が、中ほどは信心もよわく、僧をも恭敬せず、供養をもなさず、自慢して悪見をなす。これ恐るべし、恐るべし。始めより終わりまで、いよいよ信心をいたすべし。さなくして、後悔やあらんずらん。譬えば、鎌倉より京へは十二日の道なり。それを十一日余り歩みをはこびて、今一日に成って歩みをさしおきては、何として都の月をば詠め候べき。何としてもこの経の心をしれる僧に近づき、いよいよ法の道理を聴聞して、信心の歩みを運ぶべし。
　ああ、過ぎにし方のほどなきをもって知んぬ。我らが命、今幾ほどもなきことを。春の朝に花をな