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松野殿御消息(宝海梵志の事)
建治2年(ʼ76) 55歳 松野六郎左衛門
昔乃往過去の古、珊提嵐国と申す国あり。彼の国に大王あり。無諍念王と申しき。彼の王に千の王子あり。また彼の王の第一の大臣を宝海梵志と申す。彼の梵志に子あり。法蔵と申す。
彼の無諍念王の千の太子は、穢土を捨てて浄土を取り給う。その故は、この娑婆世界はいかなる所と申せば、十方の国土に、父母を殺し、正法を誹謗し、聖人を殺せる者、彼の国々よりこの娑婆世界へ追い入れられて候。例せば、この日本国の人、大科有る者の獄に入れらるるがごとし。我が力に叶わざれば、哀愍せずして捨て給う。
宝海梵志、一人請け取って、娑婆世界の人の師と成り給う。宝海梵志、願じて云わく「我は、未来世において、穢悪土の中に当に作仏することを得べし。即ち十方の浄土より擯出せらるる衆生を集めて、我は当にこれを度すべし」と誓い給いき。無諍念王と申すは阿弥陀仏なり。その千の太子は、今の観音・勢至・普賢・文殊等なり。その宝海梵志と申すは、今の釈迦如来なり。この娑婆世界の一切衆生は、十方の諸仏に抜き捨てられしを、釈迦一人ばかりして扶けさせ給うを「ただ我一人のみ」と申すなり。
日蓮 花押
松野殿
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(375)松野殿御消息(宝海梵志の事) | 建治2年(’76) | 55歳 | 松野六郎左衛門 |