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ただし、真言のことぞ御不審にわたらせ給い候らん。いかにと法門は申すとも、御心えあらんことかたし。ただ眼前の事をもって知ろしめせ。
隠岐法皇は、人王八十二代、神武よりは二千余年、天照太神入りかわらせ給いて人王とならせ給う。いかなる者かてきすべき上、欽明より隠岐法皇にいたるまで、漢土・百済・新羅・高麗よりわたり来る大法・秘法を、叡山・東寺・園城・七寺ならびに日本国にあがめおかれて候。これは皆、国を守護し国主をまぼらんためなり。隠岐法皇、世をかまくらにとられたることを口おしとおぼして、叡山・東寺等の高僧等をかたらいて、「義時が命をめしとれ」と行ぜしなり。このこと一年二年ならず、数年調伏せしに、権大夫殿はゆめゆめしろしめさざりしかば、一法も行じ給わず。また行ずとも叶うべしともおぼえずありしに、天子いくさにまけさせ給いて、隠岐国へつかわされさせ給う。
日本国の王となる人は天照太神の御魂の入りかわらせ給う王なり。先生の十善戒の力といい、いかでか国中の万民の中にはかたぶくべき。たといとがありとも、つみあるおやを失なき子のあだむにてこそ候いぬらめ。たとい親に重罪ありとも、子の身として失に行わんに、天うけ給うべしや。しかるに、隠岐法皇のはじにあわせ給いしは、いかなる大禍ぞ。これひとえに、法華経の怨敵たる日本国の真言師をかたらわせ給いしゆえなり。
一切の真言師は、灌頂と申して、釈迦仏等を八葉の蓮華にかきて、これを足にふみて秘事とするなり。かかる不思議の者ども、諸山諸寺の別当とあおぎてもてなすゆえに、たみの手にわたりて現身にはじにあいぬ。この大悪法、またかまくらに下って御一門をすかし、日本国をほろぼさんとするな
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(359)高橋入道殿御返事 | 建治元年(’75)7月12日 | 54歳 | 高橋六郎兵衛 |