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『日蓮大聖人御書全集 新版』全文検索

(337)

上野殿御返事(須達長者御書)

 弘安3年(ʼ80)12月27日 59歳 南条時光

 鵝目一貫文、送り給び了わんぬ。御心ざしの候えば申し候ぞ。よくふかき御房とおぼしめすことなかれ。
 仏にやすやすとなることの候ぞ。おしえまいらせ候わん。人のものをおしうると申すは、車のおもけれども油をぬりてまわり、ふねの水にうかべてゆきやすきようにおしえ候なり。仏になりやすきことは別のよう候わず。旱魃にかわけるものに水をあたえ、寒氷にこごえたるものに火をあたうるがごとし。また二つなき物を人にあたえ、命のたゆるに人のせにあうがごとし。
 金色王と申せし王は、その国に十二年の大旱魃あって、万民飢え死ぬることかずをしらず。河には死人をはしとし、陸にはがいこつをつかとせり。その時、金色大王、大菩提心をおこしておおきに施をほどこし給いき。せすべき物みなつきて、蔵の中にただ米五升ばかりのこれり。「大王の一日の御くごなり」と臣下申せしかば、大王、五升の米をとり出だして、一切の飢えたるものに、あるいは一りゅう二りゅう、あるいは三りゅう四りゅうなんど、あまねくあたえさせ給いてのち、天に向かわせ給いて、「朕は、一切衆生のけかちの苦にかわりて、うえしに候ぞ」と、こえをあげてよばわらせ給いしかば、天きこしめして甘露の雨を須臾に下らし給いき。この雨を手にふれ、かおにかかりし人、