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よのなか、上につけ下によせてなげきこそおおく候え。よにある人々をば、よになき人々は、きじのたかをみ、がきの毘沙門をたのしむがごとく候えども、たかはわしにつかまれ、びしゃもんはすらにせめらる。
そのように、当時、日本国のたのしき人々は、蒙古国のことをききては、ひつじの虎の声を聞くがごとし。また、筑紫へおもむきていとおしきめをはなれ子をみぬは、皮をはぎ肉をやぶるがごとくにこそ候らめ。いおうや、かの国よりおしよせなば、蛇の口のかえる、ほうちょうしがまないたにおけるこい・ふなのごとくこそおもわれ候らめ。今生はさておきぬ、命きえなば一百三十六の地獄に堕ちて、無量劫ふべし。
我らは法華経をたのみまいらせて候えば、あさきふちに魚のすむが、天くもりて雨のふらんとするを魚のよろこぶがごとし。しばらくの苦こそ候とも、ついにはたのしかるべし。国王の一人の太子のごとし、いかでか位につかざらんとおぼしめし候え。恐々謹言。
弘安三年七月二日 日蓮 花押
上野殿御返事
人にしらせずして、ひそかにおおせ候べし。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(330)上野殿御返事(神主等庇護の事) | 弘安3年(’80)7月2日 | 59歳 | 南条時光 |