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あつきには水を財とす。さむきには火を財とす。けかちには米を財とす。いくさには兵杖を財とす。海には船を財とす。山には馬をたからとす。武蔵・下総に石を財とす。この山中には、いえのいも・海のしおを財とし候ぞ。竹の子・木の子等候えども、しおなければ、そのあじわいつちのごとし。
また金と申すもの、国王も財とし、民も財とす。たとえば米のごとし、一切衆生のいのちなり。ぜに、またかくのごとし。漢土に銅山と申す山あり。彼の山よりいでて候ぜになれば、一文も千文もみな三千里の海をわたりて来るものなり。万人、皆、たまとおもえり。これを法華経にまいらせさせ給う。
釈まなんと申せし人のたな心には、石変じて珠となる。金ぞく王は沙を金となせり。法華経は草木を仏となし給う。いおうや心あらん人をや。法華経は焼種の二乗を仏となし給う。いおうや生種の人をや。法華経は一闡提を仏となし給う。いおうや信ずるものをや。事々つくしがたく候。またまた申すべし。恐々謹言。
八月八日 日蓮 花押
上野殿御返事
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(325)上野殿御返事(山中に財の事) | 弘安2年(’79)8月8日 | 58歳 | 南条時光 |