1822ページ
(295)
大井荘司入道御書
建治2年(ʼ76)2月 55歳 大井荘司入道
柿三本・酢一桶・くくたち・土筆、給び候い畢わんぬ。
唐土に天台山という山に、竜門と申して百丈の滝あり。
この滝の麓に、春の初めより、登らんとして多くの魚集まれり。千万に一も登ることを得れば竜となる。魚、竜と成らんと願うこと、民の昇殿を望むがごとく、貧なるものの財を求むるがごとし。仏に成ることも、またかくのごとし。
彼の滝は百丈、早きこと、強兵の天より箭を射徹すより早し。この滝へ魚登らんとすれば、人集まって羅網をかけ、釣をたれ、弓をもって射る。左右の辺に間なし。空には鵰・鷲・鵄・烏、夜は虎・狼・狐・狸、何となく集まって食い噬む。仏になるをも、これをもって知んぬべし。
「有情は生死の六道を輪廻す」と申して、我らが天竺において師子と生まれ、漢土・日本において虎・狼・野干と生まれ、天には鵰・鷲、地には鹿・蛇と生まれしこと数をしらず。あるいは鷹の前の雉、猫の前の鼠と生まれ、生きながら頭をつつきししむらをかまれしこと数をしらず。一劫が間の身の骨は、須弥山よりも高く、大地よりも厚かるべし。惜しき身なれども、云うに甲斐なく奪われてこ
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
---|---|---|---|
(295)大井荘司入道御書 | 建治2年(’76)2月 | 55歳 | 大井荘司入道 |