『日蓮大聖人御書全集　新版』全文検索

るいはかりょうをひき、あるいは宅をとられなんどせしに、ついにとおらせ給いぬ。法華経には、過去に十万億の仏を供養せる人こそ今生には退せぬとはみえて候え。されば、十万億供養の女人なり。
　その上、人は見る眼前には心ざし有りとも、さしはなれぬれば心はわすれずともさてこそ候に、去ぬる文永十一年より今年弘安元年まではすでに五箇年が間この山中に候に、佐渡国より三度まで夫をつかわす。いくらほどの御心ざしぞ。大地よりもあつく、大海よりもふかき御心ざしぞかし。釈迦如来は、我が薩埵王子たりし時うえたる虎に身をかいし功徳、尸毘王とありし時鳩のために身をかえし功徳をば、我が末の代、かくのごとく法華経を信ぜん人にゆずらんとこそ、多宝・十方の仏の御前にては申させ給いしか。
　その上、御消息に云わく「尼が父の十三年は来る八月十一日」。また云わく「ぜに一貫もん」等云々。あまりの御心ざしの切に候えば、ありえて御わしますに随って法華経十巻おくりまいらせ候。日蓮がこいしくおわせん時は、学乗房によませて御ちょうもんあるべし。この御経をしるしとして、後生には御たずねあるべし。
　そもそも、去々・去・今年のありさまは、いかにかならせ給いぬらんと、おぼつかなさに、法華経にねんごろに申し候いつれども、いまだいぶかしく候いつるに、七月二十七日申時に阿仏房を見つけて、「尼ごぜんはいかに。こうの入道殿はいかに」と、まずといて候いつれば、「いまだやまず。こうの入道殿は同道にて候いつるが、『わせはすでにちかづきぬ。こはなし。いかんがせん』とて、かえられ候いつる」とかたり候いし時こそ、盲目の者の眼のあきたる、死し給える父母の閻魔宮より御お