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『日蓮大聖人御書全集 新版』全文検索

計らいか。今しばらく世におわして物を御覧あれかし。
 また、世間のすぎえぬようばし歎いて、人に聞かせ給うな。もしさるならば、賢人にははずれたることなり。もしさるならば、妻子があとにとどまりて、はじを云うとは思わねども、男のわかれのおしさに、他人に向かって我が夫のはじをみなかたるなり。これひとえに、かれが失にはあらず、我がふるまいのあしかりつる故なり。
 人身は受けがたし、爪の上の土。人身は持ちがたし、草の上の露。百二十まで持って名をくたして死せんよりは、生きて一日なりとも名をあげんことこそ大切なれ。「中務三郎左衛門尉は、主の御ためにも、仏法の御ためにも、世間の心ねも、よかりけり、よかりけり」と、鎌倉の人々の口にうたわれ給え。あなかしこ、あなかしこ。蔵の財よりも身の財すぐれたり、身の財より心の財第一なり。この御文を御覧あらんよりは、心の財をつませ給うべし。
 第一秘蔵の物語あり。書いてまいらせん。日本始まって、国王二人、人に殺され給う。その一人は崇峻天皇なり。この王は、欽明天皇の御太子、聖徳太子の伯父なり。人王第三十三代の皇にておわせしが、聖徳太子を召して勅宣下さる。「汝は聖智の者と聞く。朕を相してまいらせよ」と云々。太子三度まで辞退申させ給いしかども、しきりの勅宣なれば、止みがたくして敬って相しまいらせ給う。「君は人に殺され給うべき相まします」と。王の御気色かわらせ給いて「なにという証拠をもってこのことを信ずべき」。太子申させ給わく「御眼に赤き筋とおりて候。人にあだまるる相なり」。皇帝、勅宣を重ねて下し「いかにしてか、この難を脱れん」。太子云わく「免脱れがたし。ただし、五常と