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殿いかなる事にもあわせ給うならば、ひとえに日蓮がいのちを天のたたせ給うなるべし。人の命は山海空市まぬかれがたきことと定めて候えども、また「定業もまた能く転ず」の経文もあり。また天台の御釈にも、定業をのぶる釈もあり。前に申せしように、蒙古国のよするまでつつしませ給うなるべし。
主の御返事をば申させ給うべし。「身に病ありては叶いがたき上、世間すでにこうと見え候。それがしが身は、時によりて憶病はいかんが候わんずらん。只今の心は、いかなる事も出来候わば、入道殿の御前にして命をすてんと存じ候。もしやの事候ならば、越後よりはせ上らんははるかなる上、不定なるべし。たとい所領をめさるるなりとも、今年はきみをはなれまいらせ候べからず。これより外は、いかに仰せ蒙るとも、おそれまいらせ候べからず。これよりも大事なることは、日蓮の御房の御事と過去に候父母のことなり」とののしらせ給え。「すてられまいらせ候とも、命はまいらせ候べし。後世は日蓮の御房にまかせまいらせ候」と、高声にうちなのり居させ給え。
建治二年丙子九月六日 日蓮 花押
四条金吾殿
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(205)四条金吾殿御返事(智人弘法の事) | 建治2年(’76)9月6日 | 55歳 | 四条金吾 |