1549ページ
なり。されば、伝教大師は万里の波濤をしのぎ給いて相伝しまします、この文なり。一句万了の一言とは、これなり。
当世天台宗の開会の法門を申すも、この経文を悪しく意得て邪義を云い出だし候ぞ。ただこの経を持って、南無妙法蓮華経と唱えて、「正直に方便を捨てて、ただ無上道を説くのみ」と信ずるを、諸法実相の開会の法門とは申すなり。その故は、釈迦仏・多宝如来・十方三世の諸仏を証人とし奉り候なり。相構えて、かくのごとく心得させ給いて、諸法実相の四つの文字を時々あじわえ給うべし。
良薬に毒をまじうることあるべきか。うしおの中より河の水を取り出だすことありや。月は夜に出で、日は昼出で給う。この事諍うべきか。これより後には、かように意得給いて御問答あるべし。ただし、細々は論難し給うべからず。なおも申さば、「それがしの師にて候日蓮房に御法門候え」とうち咲って、打ち返し打ち返し仰せ給うべく候。
建治元年乙亥七月二十二日 日蓮 花押
四条中務三郎左衛門尉殿御返事
法門を書きつるあいだ、御供養の志は申さず候。有り難し、有り難し。委しくは、これよりねんごろに申すべく候。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
---|---|---|---|
(201)四条金吾殿御返事(法論心得の事) | 建治元年(’75)7月22日 | 54歳 | (四条金吾) |