『日蓮大聖人御書全集　新版』全文検索

たる第一のあだにてはんべるなり。釈迦如来は悉達太子としておわしし時、提婆達多も同じ太子なり。耶輸大臣に女あり。耶輸多羅女となづく。五天竺第一の美女、四海名誉の天女なり。悉達と提婆と、共に后にせんことをあらそい給いし故に、中あしくならせ給いぬ。
　後に悉達は出家して仏とならせ給い、提婆達多また須陀比丘を師として出家し給いぬ。仏は二百五十戒を持ち、三千の威儀をととのえ給いしかば、諸の天人これを渇仰し、四衆これを恭敬す。提婆達多を人たっとまざりしかば、いかにしてか世間の名誉仏にすぎんとはげみしほどに、とこう案じいだして、仏にすぎて世間にたっとまれぬべきこと五つあり。四分律に云わく「一には糞掃衣、二には常乞食、三には一座食、四には常露座、五には塩および五味を受けず」等云々。仏は人の施す衣をうけさせ給い、提婆達多は糞掃衣。仏は人の施す食をうけ給い、提婆はただ常乞食。仏は一日に一・二・三反も食せさせ給い、提婆はただ一座食。仏は塚間・樹下にも処し給い、提婆は日中常露座なり。仏は便宜にはしおまたは五味を服し給い、提婆はしお等を服せず。こうありしかば、世間、提婆の仏にすぐれたること雲泥なり。
　かくのごとくして仏を失いたてまつらんとうかがいしほどに、頻婆舎羅王は仏の檀那なり。日々に五百輛の車を数年が間一度もかかさずおくりて、仏ならびに御弟子等を供養し奉る。これをそねみとらんがために、未生怨太子をかたらって父・頻婆舎羅王を殺させ、我は仏を殺さんとして、あるいは石をもって仏を打ちたてまつるは身業なり。「仏は誑惑の者」と罵詈せしは口業なり。内心より宿世の怨とおもいしは意業なり。三業相応の大悪、これにはすぐべからず。