『日蓮大聖人御書全集　新版』全文検索

候いしかば、この人もこころえずげに思っておわしき。
　傍座の人々も、こころえずげにおもわれしかども、その後承りしに、法華経を持たるるの由承りしかば、「この人邪見を翻し給うか。善人に成り給いぬ」と悦び思い候ところに、またこの釈迦仏を造らせ給うこと、申すばかりなし。当座には強げなる様にありしかども、法華経の文のままに説き候いしかば、こうおれさせ給えり。「忠言耳に逆らい、良薬口に苦し」と申すことは、これなり。
　今既に、日蓮、師の恩を報ず。定めて仏神、納受し給わんか。各々この由を道善房に申し聞かせ給うべし。
　たとい強言なれども、人をたすくれば実語・軟語なるべし。たとい軟語なれども、人を損ずるは妄語・強言なり。当世の学匠等の法門は、軟語・実語と人々は思しめしたれども、皆、強言・妄語なり。仏の本意たる法華経に背く故なるべし。日蓮が「念仏申す者は無間地獄に堕つべし。禅宗・真言宗もまた謬りの宗なり」なんど申し候は、強言とは思しめすとも、実語・軟語なるべし。例せば、この道善御房の法華経を迎え釈迦仏を造らせ給うことは、日蓮が強言より起こる。
　日本国の一切衆生も、またまたかくのごとし。当世、この十余年已前は一向念仏者にて候いしが、十人が一・二人は一向に南無妙法蓮華経と唱え、二・三人は両方になり、また一向念仏申す人も、疑いをなす故に、心中に法華経を信じ、また釈迦仏を書き造り奉る。これまた日蓮が強言より起こる。譬えば、栴檀は伊蘭より生じ、蓮華は泥より出でたり。しかるに、「念仏は無間地獄に堕つる」と申せば、当世牛馬のごとくなる智者どもが、日蓮が法門をかりそめにも毀るは、糞犬が師子王をほえ、