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くところの一切経の中に、法華経第一なり。譬えば、諸経は大河・中河・小河等のごとし、法華経は大海のごとし等と説くなり。
河に勝れて、大海に十の徳有り。一に大海は漸次に深し、河はしからず。二に大海は死屍を留めず、河はしからず。三に大海は本の名字を失う、河はしからず。四に大海は一味なり、河はしからず。五に大海は宝等有り、河はしからず。六に大海は極めて深し、河はしからず。七に大海は広大無量なり、河はしからず。八に大海は大身の衆生等有り、河はしからず。九に大海は潮の増減有り、河はしからず。十に大海は大雨・大河を受けて盈溢無し、河はしからず。
この法華経には十の徳有り。諸経には十の失有り。この経は漸次深多にして五十展転なり。諸経にはなお一も無し、いわんや、二・三・四乃至五十展転をや。河は深けれども大海の浅きに及ばず。諸経は、一字・一句・十念等をもって十悪五逆等の悪機を摂むといえども、いまだ一字一句の随喜五十展転には及ばざるなり。この経の大海は死屍を留めずとは、法華経に背く謗法の者は、極善の人なりといえども、なおこれを捨つ。いかにいわんや、悪人なるの上、謗法をなさん者をや。たとい諸経を謗ずといえども、法華経に背かざれば必ず仏道を成ず。たとい一切経を信ずといえども、法華経に背かば、必ず阿鼻大城に堕つ。
乃至、第八に大海は大身の衆生等ありというは、大海には摩竭大魚等、大身の衆生これ有り。無間地獄と申すは縦広八万由旬なり。五逆の者、無間地獄に堕ちては一人にて必ず充満す。この地獄の衆生は五逆の者、大身の衆生なり。諸経の小河・大河の中には摩竭大魚これ無し。法華経の大海にはこ
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(032)薬王品得意抄 | 文永2年(’65) | 44歳 |