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を本として、金剛頂経の疏七巻、蘇悉地経の疏七巻、已上十四巻をつくる。
この疏の肝心の釈に云わく「教に二種有り。一は顕示教。謂わく三乗教なり。世俗と勝義といまだ円融せざるが故に。二は秘密教。謂わく一乗教なり。世俗と勝義と一体にして融ずるが故に。秘密教の中にまた二種有り。一には理秘密の教。謂わく華厳・般若・維摩・法華・涅槃等なり。ただ世俗と勝義との不二を説くのみにして、いまだ真言・密印の事を説かざるが故に。二には事理俱密の教。謂わく大日経・金剛頂経・蘇悉地経等なり。また世俗と勝義との不二を説き、また真言・密印の事を説くが故に」等云々。釈の心は、法華経と真言の三部との勝劣を定めさせ給うに、「真言の三部経と法華経とは、所詮の理は同じく一念三千の法門なり。しかれども、密印と真言等の事法は、法華経にはかけておわせず。法華経は理秘密、真言の三部経は事理俱密なれば、天地雲泥なり」とかかれたり。しかも、「この筆は私の釈にはあらず、善無畏三蔵の大日経の疏の心なり」とおぼせども、なおなお二宗の勝劣不審にやありけん、はたまた他人の疑いをさんぜんとやおぼしけん、大師〈慈覚なり〉の伝に云わく「大師、二経の疏を造り、功を成しおわって、中心に独り謂えらく『この疏、仏意に通ずるや否や。もし仏意に通ぜずんば、世に流伝せじ』。よって仏像の前に安置し、七日七夜、翹企すること深誠にして、勤修して祈請す。五日の五更に至って夢みらく、正午に当たって日輪を仰ぎ見て、弓をもってこれを射る。その箭、日輪に当たって、日輪即ち転動す。夢覚めての後、深く悟る。『仏意に通達せり。後世に伝うべし』と」等云々。
慈覚大師は、本朝にしては伝教・弘法の両家を習いきわめ、異朝にしては八大徳ならびに南天の宝
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(009)撰時抄 | 建治元年(’75) | 54歳 | 西山由比殿 |