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『日蓮大聖人御書全集 新版』全文検索

(323)

上野殿御返事(藍よりも青き事)

 弘安2年(ʼ79)1月3日 58歳 南条時光

 餅九十枚・薯蕷五本、わざと御使いをもって、正月三日ひつじの時に、駿河国富士郡上野郷より甲州波木井郷身延山のほらへおくりたびて候。
 夫れ、海辺には木を財とし、山中には塩を財とす。旱魃には水をたからとし、闇中には灯を財とす。女人はおとこを財とし、おとこは女人をいのちとす。王は民をおやとし、民は食を天とす。
 この両三年は、日本国の内大疫起こって、人半分げんじて候上、去年の七月より大いなるけかちにて、さといちのむえんのものと山中の僧等は命存しがたし。
 その上、日蓮は法華経誹謗の国に生まれて、威音王仏の末法の不軽菩薩のごとし。はたまた、歓喜増益仏の末の覚徳比丘のごとし。王もにくみ、民もあだむ。衣もうすく、食もとぼし。布衣はにしきのごとし。草葉をば甘露と思う。
 その上、去年の十一月より雪つもりて山里路たえぬ。
 年返れども、鳥の声ならではおとずるる人なし、友にあらずばたれか問うべきと心ぼそくて過ごし候ところに、元三の内に十字九十枚、満月のごとし。心中もあきらかに、生死のやみもはれぬべし。