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疑って云わく、今世にこの法を流布せば、先相これ有りや。
答えて曰わく、法華経に「如是相乃至本末究竟等」云々。天台云わく「蜘蛛掛かって喜び事来り、鳱鵲鳴いて客人来る。小事すらなおもってかくのごとし。いかにいわんや大事をや」取意。
問うて曰わく、もししからば、その相これ有りや。
答えて曰わく、去ぬる正嘉年中の大地震、文永の大彗星、それより已後、今に種々の大いなる天変地夭、これらはこの先相なり。仁王経の七難・二十九難・無量の難、金光明経・大集経・守護経・薬師経等の諸経に挙ぐるところの諸難、皆これ有り。ただし、無きところは二・三・四・五の日出ずる大難なり。しかるを、今年、佐渡国の土民口に云わく「今年正月二十三日の申時、西の方に二つの日出現す」。あるいは云わく「三つの日出現す」等云々。「二月五日には東方に明星二つ並び出ず。その中間は三寸ばかり」等云々。この大難は日本国先代にもいまだこれ有らざるか。
最勝王経の王法正論品に云わく「変化の流星堕ち、二つの日俱時に出で、他方の怨賊来って、国人喪乱に遭わん」等云々。首楞厳経に云わく「あるいは二つの日を見、あるいは両つの月を見る」等。薬師経に云わく「日月薄蝕の難」等云々。金光明経に云わく「彗星しばしば出で、両つの日並び現じ、薄蝕恒無し」。大集経に云わく「仏法実に隠没すれば乃至日月も明を現ぜず」等。仁王経に云わく「日月度を失い、時節返逆し、あるいは赤日出で、黒日出で、二・三・四・五の日出で、あるいは日蝕して光無く、あるいは日輪一重、二・三・四・五重の輪現ず」等云々。この日月等の難は、七難・二十九難・無量の諸難の中に第一の大悪難なり。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(008)法華取要抄 | 文永11年(’74)5月24日 | 53歳 | 富木常忍 |