『日蓮大聖人御書全集　新版』全文検索

　問うて云わく、法華経をはなれて往生・成仏をとげずば、仏世に出でさせ給いては、ただ法華経ばかりをこそ説かせ給わめ。なんぞわずらわしく四十余年の経々を説かせ給うや。
　答えて云わく、この難は仏自ら答え給えり。「もしただ仏乗を讃むるのみならば、衆生は苦に没し、法を破して信ぜざるが故に、三悪道に墜ちなん」等の経文これなり。
　問うて云わく、いかなれば、爾前の経をば衆生謗ぜざるや。
　答えて云わく、爾前の経々は万差なれども、束ねてこれを論ずれば、随他意と申して衆生の心をとかれてはんべり。故に違することなし。譬えば、水に石をなぐるにあらそうことなきがごとし。またしなじなの説教はんべれども、九界の衆生の心を出でず。衆生の心は皆、善につけ悪につけて、迷いを本とするゆえに、仏にはならざるか。
　問うて云わく、衆生謗ずべきゆえに、仏、最初に法華経をとき給わずして四十余年の後に法華経をとき給わば、汝、なんぞ当世に権経をばとかずして左右なく法華経をといて、人に謗をなさせて悪道に堕とすや。
　答えて云わく、仏在世には、仏、菩提樹の下に坐し給いて機をかがみ給うに、「当時、法華経を説くならば、衆生謗じて悪道に堕ちぬべし。四十余年すぎて後にとかば、謗ぜずして、初住不退、乃至妙覚にのぼりぬべし」と知見しましましき。
　末代濁世には、当機にして初住の位に入るべき人は、万に一人もありがたかるべし。また、能化の人も仏にあらざれば、機をかがみんことも、これかたし。されば、逆縁・順縁のためにまず法華経を