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第三に衆合地獄とは、黒縄地獄の下にあり。縦広は上のごとし。多くの鉄の山、二つずつ相向かえり。牛頭・馬頭等の獄卒、手に棒を取って罪人を駆って山の間に入らしむ。この時、両つの山迫り来って合わせ押す。身体くだけて、血流れて地にみつ。また種々の苦あり。人間の二百歳を第三の夜摩天の一日一夜として、この天の寿二千歳なり。この天の寿を一日一夜として、この地獄の寿命二千歳なり。
殺生・偸盗の罪の上に、邪婬とて他人のつまを犯す者、この地獄の中に堕つべし。しかるに、当世の僧尼士女、多分はこの罪を犯す。殊に僧にこの罪多し。士女は各々互いにまぼり、また人目をつつまざる故に、この罪をおかさず。僧は一人ある故に婬欲ともしきところに、もし有身らば父ただされあらわれぬべきゆえに、独りある女人をおかさず。もしやかくるると他人の妻をうかがい、ふかくかくれんとおもうなり。当世のほかとうとげなる僧の中に、ことにこの罪また多くあるらんとおぼゆ。されば、多分は、当世とうとげなる僧、この地獄に堕つべし。
第四に叫喚地獄とは、衆合の下にあり。縦広前に同じ。獄卒、悪声を出だして、弓箭をもって罪人をいる。また鉄の棒をもって頭を打って、熱鉄の地をはしらしむ。あるいは熱鉄のいりだなに、うちかえしうちかえしこの罪人をあぶる。あるいは口を開けて、わける銅のゆを入るれば、五臓やけて下より直ちに出ず。寿命をいわば、人間の四百歳を第四の都率天の一日一夜とす。また都率天の寿四千歳なり。都率天の四千歳の寿を一日一夜として、この地獄の寿命四千歳なり。
この地獄の業因をいわば、殺生・偸盗・邪婬の上に、飲酒とて酒のむもの、この地獄に堕つべし。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(029)顕謗法抄 | 弘長2年(’62) | 41歳 |