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日本国の一切衆生に法華経を信ぜしめて、仏に成る血脈を継がしめんとするに、還って日蓮を種々の難に合わせ、結句この島まで流罪す。
しかるに、貴辺、日蓮に随順し、また難に値い給うこと、心中思い遣られて痛ましく候ぞ。金は大火にも焼けず、大水にも漂わず、朽ちず。鉄は水火共に堪えず。賢人は金のごとく、愚人は鉄のごとし。貴辺あに真金にあらずや。法華経の金を持つ故か。経に云わく「衆山の中に須弥山はこれ第一なり。この法華経もまたかくのごとし」。また云わく「火も焼くこと能わず、水も漂わすこと能わず」云々。
過去の宿縁追い来って、今度日蓮が弟子と成り給うか。釈迦・多宝こそ御存知候らめ。「在々諸仏土、常与師俱生(いたるところの諸仏の土に、常に師とともに生ず)」、よも虚事候わじ。
殊に生死一大事の血脈相承の御尋ね、先代未聞のことなり。貴し、貴し。この文に委悉なり。能く能く心得させ給え。ただ南無妙法蓮華経釈迦多宝上行菩薩血脈相承と修行し給え。
火は焼き照らすをもって行となし、水は垢穢を浄むるをもって行となし、風は塵埃を払うをもって行となし、また人畜・草木のために魂となるをもって行となし、大地は草木を生ずるをもって行となし、天は潤すをもって行となす。
妙法蓮華経の五字もまたかくのごとし。本化地涌の利益これなり。上行菩薩、末法今の時、この法門を弘めんがために御出現これ有るべき由、経文には見え候えども、いかんが候やらん、上行菩薩出現すとやせん、出現せずとやせん、日蓮まずほぼ弘め候なり。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(276)生死一大事血脈抄 | 文永9年(’72)2月11日 | 51歳 | 最蓮房 |