12ページ
国を安穏ならしむるようにして終に国を損じ、仏法を弘むるようにして還って仏法を失うべし、国王・大臣、この由を深く知ろしめさずしてこの言を信受する故に、国を破り仏教を失うという文なり。この時、日月度を失い、時節もたがいて夏はさむく冬はあたたかに、秋は悪風吹き、赤き日月出で、望朔にあらずして日月蝕し、あるいは二・三等の日出来せん。大火・大風・彗星等おこり、飢饉・疫病等あらんと見えたり。国を損じ人を悪道におとす者は、悪知識に過ぎたることなきか。
問うて云わく、始めに智者の御物語とて申しつるは、詮ずるところ、後世のことの疑わしき故に善悪を申して承らんためなり。彼の義等は恐ろしきことにあるにこそ侍るなれ。一文不通の我らがごとくなる者は、いかにしてか法華経に信をとり候べき。また心ねをば、いかように思い定め侍らん。
答えて云わく、この身の申すことをも一定とおぼしめさるまじきにや。その故は、かように申すも天魔波旬・悪鬼等の身に入って人の善き法門を破りやすらんとおぼしめされ候わん。一切は賢きが智者にて侍るにや。
問うて云わく、もしかように疑い候わば、我が身は愚者にて侍り、万の智者の御語をば疑い、さて信ずる方も無くして空しく一期過ごし侍るべきにや。
答えて云わく、仏の遺言に「法に依って人に依らざれ」と説かせ給いて候えば、経のごとくに説かざるをば、いかにいみじき人なりとも御信用あるべからず候か。また「了義経に依って不了義経に依らざれ」と説かれて候えば、愚癡の身にして一代聖教の前後・浅深を弁えざらんほどは、了義経に付かせ給い候え。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
---|---|---|---|
(001)唱法華題目抄 | 文応元年(’60)5月28日 | 39歳 |