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また法華経の寿量品に、「小法を楽える徳薄・垢重の者」と申す文あり。天台大師は、この経文に「小法」と云うは、小乗経にもあらず、また諸大乗経にもあらず、久遠実成を説かざる華厳経の円乃至方等・般若・法華経の迹門十四品の円頓の大法まで小乗の法なり、また、華厳経等の諸大乗経の教主の法身・報身・毘盧遮那・盧舎那・大日如来等をも小仏なりと釈し給う。この心ならば、涅槃経・大日経等の一切の大小・権実・顕密の諸経は皆小乗経、八宗の中に俱舎宗・成実宗・律宗を小乗と云うのみならず、華厳宗・法相宗・三論宗・真言宗等の諸大乗宗を小乗宗として、ただ天台宗一宗ばかり実大乗宗なるべし。
彼々の大乗宗の依るところの経々には、絶えて二乗作仏・久遠実成の最大の法をとかせ給わず。譬えば、一尺二尺の石を持つ者をば大力といわず、一丈二丈の石を持つを大力と云うがごとし。華厳経の法界円融・四十一位、般若経の混同無二・十八空・乾慧地等の十地、瓔珞経の五十二位、仁王経の五十一位、薬師経の十二の大願、双観経の四十八願、大日経の真言・印契等、これらは、小乗経に対すれば大法・秘法なり。法華経の二乗作仏・久遠実成に対すれば小乗の法なり。一尺二尺を一丈二丈に対するがごとし。
また、二乗作仏・久遠実成は、法華経の肝要にして、諸経に対すれば奇たりといえども、法華経の中にてはいまだ奇妙ならず。一念三千と申す法門こそ、奇が中の奇、妙が中の妙にて、華厳・大日経等に分絶えたるのみならず、八宗の祖師の中にも真言等の七宗の人師、名をだにもしらず。天竺の大論師、竜樹菩薩・天親菩薩は、内には珠を含み、外にはかきあらわし給わざりし法門なり。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(040)小乗大乗分別抄 | 文永10年(’73)* | (富木常忍) |