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もに歴劫無し。妙法経力もて即身成仏す」。天台、疏に云わく「智積は別教に執して疑いをなす。竜女は円を明かして疑いを釈く。身子は三蔵の権を挟んで難ず。竜女は一実をもって疑いを除く」。海竜王経に云わく「竜女作仏し、国土をば光明国と号し、名をば無垢証如来と号す」云々。法華已前の諸経のごときは、たとい人中・天上の女人なりというとも、成仏の思い絶たるべし。しかるに竜女、畜生道の衆生として戒緩の姿を改めずして即身成仏せしことは、不思議なり。これを始めとして、釈尊の姨母・摩訶波闍波提比丘尼等、勧持品にして一切衆生喜見如来と授記を被り、羅睺羅の母・耶輸陀羅女も、眷属の比丘尼とともに具足千万光相如来と成り、鬼道の女人たる十羅刹女も成仏す。しかれば、なお殊に女性の御信仰あるべき御経にて候。
そもそも、この経の一文一句を読み一字一点を書く、なお生死を出離し大菩提を証するの因なり。しかれば、彼の字に結縁せし者、なお炎魔の庁より帰され、六十四字を書きし人は、その父を天上へ送る。いかにいわんや、阿鼻の依正は極聖の自心に処す。地獄・天宮皆これ果地の如来なり。毘盧の身土は凡下の一念を逾えず。遮那の覚体も衆生の迷妄を出でず。妙文は霊山浄土に増し、六万九千の露点は紫磨金の輝光を副え給うべし。殊に過去聖霊は、御存生の時より御信心他に異なる御事なりしかば、今日、講経の功力によって仏前に生を受け、仏果菩提の勝因に登り給うべし云々。南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(031)女人成仏抄 | 文永2年(’65) | 44歳 |