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次に、無量義経に云わく「次に方等十二部経・摩訶般若・華厳海空を説く」云々。また云わく「真実甚深、甚深甚深なり」云々。この文の心は、無量義経は諸経の中に勝れて甚深の中にもなお甚深なり。しかれども、法華の序分にして機もいまだなましき故に、正説の法華には劣るなり〈これ、その二〉。
次に、涅槃経の九に云わく「この経、世に出ずるは、彼の果実の利益するところ多く一切を安楽ならしむるがごとく、能く衆生をして仏性を見せしむ。法華の中の八千の声聞の記別を授かることを得て大果実を成ずるがごとし。秋収冬蔵して、さらに所作無きがごとし」云々。籤の一に云わく「一家の義意に謂えらく、二部は同味なれども、しかも涅槃はなお劣る」云々。この文の心は、涅槃経も醍醐味、法華経も醍醐味、同じ醍醐味なれども、涅槃経はなお劣るなり、法華経は勝れたりと云えり。涅槃経は既に法華の序分の無量義経よりも劣り、醍醐味なるが故に華厳経には勝れたり〈これ、その三〉。
次に、華厳経は、最初頓説なるが故に般若には勝れ、涅槃経の醍醐味には劣れり〈これ、その四〉。
次に、蘇悉地経に云わく「なお成ぜずんば、あるいは、また大般若経を転読すること七遍」云々。この文の心は、大般若経は華厳経には劣り、蘇悉地経には勝ると見えたり〈これ、その五〉。
次に、蘇悉地経に云わく「三部の中において、この経を王となす」云々。この文の心は、蘇悉地経は大般若経には劣り、大日経・金剛頂経には勝ると見えたり〈これ、その六〉。
この義をもって、大日経は法華経より七重の劣とは申すなり。法華の本門に望むれば、八重の劣とも申すなり。
次に、弘法大師の十住心を立てて「法華は三重の劣」と云うことは、安然の教時義という文に十住
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(057)真言天台勝劣事 | 文永7年(’70) | 49歳 |