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多けれども、このことにおいてはよくよく禁められたり。善導の観念法門経に云わく「酒肉五辛を手に取らざれ。口にかまざれ。手にとり口にもかみて念仏を申さば、手と口に悪瘡付くべし」と禁め、法然上人は起請を書いて云わく「酒肉五辛を服して念仏申さば、予が門弟にあらず」と云々。不浄にして念仏を申すべしとは、当世の念仏者の大妄語なり。
問うて云わく、善導和尚・法然上人の釈を引くは、彼の釈を用いるや否や。
答えて云わく、しからず。念仏者の師たる故に、彼がことば己が祖師に相違するが故に、彼の祖師の禁めをもって彼を禁むるなり。例せば、世間の沙汰の、彼が語の彼の文書に相違するを責むるがごとし。
問うて云わく、善導和尚・法然上人には何事の失あれば用いざるや。
答えて云わく、仏の御遺言には、「我滅度して後には、四依の論師たりといえども、法華経にたがわば、用いるべからず」と、涅槃経に返す返す禁め置かせ給いて侍るに、法華経には我滅度して後末法に諸経失せて後殊に法華経流布すべき由、一所二所ならずあまたの所に説かれて侍り。したがって、天台・妙楽・伝教・安然等の義にこのこと分明なり。
しかるに、善導・法然、法華経の方便の一分たる四十余年の内の未顕真実の観経等に依って、仏も説かせ給わぬ我が依経の「読誦大乗」の内に法華経をまげ入れて、還って我が経の名号に対して「読誦大乗」の一句をすつる時、「法華経を抛てよ」「門を閉じよ」「千の中に一りも無し」なんど書いて侍る僻人をば、眼あらん人これをば用いるべしやいなや。
題号 | 執筆年月日 | 聖寿 | 対告衆 |
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(056)題目弥陀名号勝劣事 | 文永元年(’64) | 43歳 |