『日蓮大聖人御書全集　新版』全文検索

処にて、御弟子・章安大師と申す人に説ききかせ給いし止観十巻あり。上の四帖になおおしみ給いて、ただ六即・四種三昧等ばかりの法門にてありしに、五の巻より十境十乗を立てて一念三千の法門は書き給えり。これを妙楽大師、末代の人に勧進してのたまわく「ならびに三千をもって指南となす○請う、尋ね読まん者、心に異縁無かれ」文。六十巻・三千丁の多くの法門も由無し。ただこの初めの二・三行を意得べきなり。
　止観〈天台〉に云わく「夫れ、一心に十法界を具す。一法界にまた十法界を具すれば、百法界なり。一界に三十種の世間を具すれば、百法界には即ち三千種の世間を具す。この三千、一念の心に在り」文。妙楽承け、釈して云わく「当に知るべし、身土は一念の三千なり。故に、成道の時、この本理に称って、一身一念法界に遍し」文。
　日本の伝教大師、比叡山の立ちし時、根本中堂の地を引き給いし時、地中より舌八つある鑰を引き出だしたりき。この鑰をもって入唐の時に、天台大師より第七代、妙楽大師の御弟子・道𨗉和尚に値い奉って天台の法門を伝えし時、天機秀発の人たりしあいだ、道𨗉和尚悦んで天台の造り給える十五の経蔵を開き見せしめ給いしに、十四を開いて一蔵を開かず。その時、伝教大師云わく「師、この一蔵を開き給え」と請い給いしに、𨗉和尚云わく「この一蔵は開くべき鑰無し。天台大師自ら世に出でて開き給うべし」云々。その時、伝教大師、日本より随身の鑰をもって開き給いしに、この経蔵開きたりしかば、経蔵の内より、光、室に満ちたりき。その光の本を尋ぬれば、この一念三千の文より光を放ちたりしなり。ありがたかりしことなり。その時、𨗉和尚は返って伝教大師を礼拝し給いき。